俳優の井浦新と女優の田中麗奈がダブル主演を務める映画「福田村事件」が9月1日から公開される。題材は100年前の関東大震災直後に東葛飾郡福田村(現在の野田市)で起こった虐殺事件。当時、朝鮮人による略奪や放火を伝えるデマが広がり、各地で自警団などが朝鮮人を殺害する事件が相次いでいた。メガホンを取ったのは、ドキュメンタリー作品を多く手がけてきた森達也監督(67)=我孫子市=。自身初の劇映画となる本作で、何を伝えようとしたのか。森監督に話を聞いた。(佐藤瑞妃)
──事件は震災5日後の1923年9月6日に発生。香川県から福田村を訪れた行商一行が、同村や隣の田中村(現在の柏市)の自警団に襲われた。15人のうち妊婦や幼児を含む9人が殺された。事件を知ったきっかけは。
「野田市で慰霊碑を建立するという新聞の小さな囲み記事だった。朝鮮人虐殺に関わるけどよく分からないなと思って現地に行ったら、資料もないし、話してくれる人もいないし。なんとかアウトラインが分かって、テレビでドキュメンタリーを作ろうとしたら無理だった。ずっと諦めてたんだけど、劇映画だったらできるかなと」
──そこまで「福田村事件」にこだわった理由は。
「僕にとっての原点はオウム真理教のドキュメンタリー映画。あのときびっくりしたのは、信者達が善良で穏やかで。でも彼らも指示されたらサリンをまいていたはず。なんでこんな邪気のない人がそんなことをするのかがテーマになっていた。ポーランドのアウシュビッツ(強制収容所)やカンボジアのキリングフィールド(虐殺現場)にも行ったが、やっぱり同じ。加害した人も結局普通の人。国へ帰れば父であり、息子であり。その観点が大事だと思っていたので、朝鮮人虐殺はずっと形にしたいなと思ってました」
──フィクションを織り交ぜたのは資料が足りなかったからか。
「そう。そもそも、僕の最初(の作品)は劇映画。自主映画だけど、大学生のときに映研に入って ・・・
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