「日常壊され突然弱者に」 銃撃事件で兄亡くした弁護士 犯罪被害者・遺族支援訴え 山武署で講演会

兄を亡くした事件や犯罪被害者支援について講演する伊東弁護士=山武署
兄を亡くした事件や犯罪被害者支援について講演する伊東弁護士=山武署

 市町村による犯罪被害者支援条例の制定を後押ししようと、山武署(出井義裕署長)は、地域住民らで構成する同署協議会などと合同で講演会を開いた。1994年に兄を米国での銃撃事件で亡くし、現在は犯罪被害者の支援に取り組む伊東秀彦弁護士(43)が、突然つらい環境に置かれる被害者遺族の心情や、細やかに寄り添う支援の必要性について、体験を踏まえて訴えかけた。

 佐倉市出身の伊東弁護士は、中学1年生だった94年3月、映画制作について学ぶため米国に留学していた兄の拓磨さん=当時(19)=を亡くした。ロサンゼルスで車を奪おうとした男から銃撃された拓磨さんは「撃たないで」と懇願したが、一緒にいた友人の日本人留学生とともに撃たれた。

 拓磨さんはハリウッド映画が好きで、留学前にはアルバイトで学費を稼ぎ、憧れの米国で93年から映画制作を学んでいたという。銃撃事件で、伊東さんら家族は突然「犯罪被害者遺族」の立場に置かれ、佐倉の自宅玄関には報道陣が殺到し日常生活に支障が出た。命と夢を奪われた拓磨さん。すぐに渡米した家族が対面したときには、病院で生命維持装置につながれ既に意識のない状態だった。

 この経験から犯罪被害者の支援に関わりたいと感じ、司法試験に挑んで合格した伊東弁護士は「(犯罪被害者や遺族は)犯罪で日常を破壊される。社会的弱者に急きょ追い込まれる」と語り、国や都道府県と比べて住民に近い、市町村を含む官民組織が支援に取り組む重要性を強調した。

 今回の講演会は、山武署協議会、同署管内「犯罪被害者支援連絡協議会」を山武市の同署で開き実施。見舞金支給などを盛り込む犯罪被害者支援条例は、同署管内の3市町(山武市、芝山町、横芝光町)ともに未制定だが、同署と3市町が話し合うなどして制定に向けた準備が進んでいるという。

 出井署長は「条例の制定によって被害者から一番近い自治体にすぐ相談できるようになる」と説明した。


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