千葉市消防局の消防士が飲酒運転で懲戒免職となったことを受けて、同局が1000人近い全局員で禁酒する対応を決めたことが波紋を呼んだ。反応の多くは「意味のない連帯責任」といった、個人の責任を組織全体に広げることへの批判。しかし、実は3年前にも同局は「全員禁酒」を行い、「不祥事防止に効果的」と結論付けた“実績“があった。今回の判断にもつながった当時の詳しい経緯を取材した。(報道部・佐藤楓)
担当者「連帯責任ではない」
今月7日に免職の懲戒処分となったのは、花見川消防署の男性消防士(22)。11月11日の午後0時50分ごろ、千葉市中央区の国道357号で酒気帯び状態で乗用車を運転。信号待ちをしていた乗用車に追突する事故を起こし、道交法違反(酒気帯び運転)の疑いで現行犯逮捕された。懲戒処分とともに、12月末まで市消防局の全職員約960人で禁酒していることも発表された。
このニュースが報じられると、ネット上ではビールやハイボールなど20杯以上も1人で飲んだという酒量もさることながら、「意味のない連帯責任」「忘年会シーズンなのに真面目にやってる人がかわいそう」などと批判の声が続出。「なぜ全員で禁酒なのか」「飲んでしまったらどうするのか」などの疑問も飛び交った。同局にも「禁酒はやりすぎ」などのメールが届いたという。
同局人事課によると、事件発覚後の11月13日、全職員に12月末までの約1カ月半、禁酒するよう通知を出した。忘年会などの飲み会を開くことはもちろん、飲食店での飲酒、自宅での晩酌なども禁止。ただ、飲んでしまった場合の処分などは決めていないという。
なぜ、全員で禁酒する必要があったのか。市消防局人事課の担当者は「"連帯責任"という意味合いではない」と強調する。
幅広い対策実施も…
実は同局が「全員禁酒」を行ったのは3年ぶり2度目だ。同課担当者によれば、この対応に乗り出したのにはそれなりの深いわけがある。
2018年度、酒酔い運転の道交法違反容疑で局員が現行犯逮捕されたほか、女子高生への性行為強要容疑による逮捕、送別会の場で同僚女性職員へのセクハラ発言など、1年間で計4件もの不祥事が相次いだ。
事態を重く見た同局は18年12月、消防局長を委員長とし、部長や所属長ら委員20人で構成する「不祥事防止対策検討委員会」を設置。4度の会議を重ね、危機管理やメンタルヘルスが専門の大学教授ら外部有識者のアドバイスも受けながら不祥事対策の報告書をまとめた。
報告書では「ハラスメントのない職場環境の実現」「コンプライアンス意識の醸成を図る」「風通しの良い職場環境づくり」という三つの方針を設定。これらに基づき、弁護士やハラスメントの専門家を招いての研修会▽ハラスメント撲滅を誓う局員の誓約書提出▽各所属でのコンプライアンス検討会の設置▽所属長による全職員面談の実施―など新規9事業を含む計17事業もの幅広い不祥事対策に取り組み始めた。
再発防止へ「人ごとにしない」
ところが、翌19年度も局員のひき逃げが発覚。そのほか、窃盗、同僚へのパワハラや暴行など、前年度より多い計6件の不祥事が起きてしまった。
減少どころか増加したことに、「できる限りの対策を取ったものの、あまり効果が見えずにいた」。担当者は局内に広がった当時の無力感を振り返る。
20年3月に極め付きの事件が起きた。緑消防署の消防司令補の男(35)=当時=が深夜まで飲酒した後に女子大学生に暴行。強盗強制性交容疑で逮捕された。
この事件を受け、同局は「さらに踏み込んだ対応」として同年4月から1カ月間、全職員での禁酒を決めた。
すると、この禁酒以降、今年11月の飲酒運転事件が発生するまでの約3年間、不祥事の発生はゼロ。同局には、他のどんな対策よりも「全員禁酒」が効果を上げたように映った。
同課担当者は「あれだけ続発していた不祥事がぴたりと止まった」とし、その理由を「全員が禁酒することで不祥事を他人ごとにせず、一人一人が自らの行動を見直す機会となったことが再発防止に効果的だったのでは」と分析。「今回の全員禁酒で飲酒運転はもちろん、全ての不祥事を防ぎたい」と話す。
全員で意識高める
「全員禁酒」のインパクトが大きかったことから、それだけが注目を集めてしまった感もあるが、同局が取り組んでいる不祥事防止策は禁酒だけではない。
飲酒の機会が増える夏や年末年始、年度初めの時期などは所属長が「綱紀の保持」を改めて呼びかけ。さらに随時、各職場で不祥事防止のコンプライアンス研修なども実施している。今回も禁酒と併せて職員の研修を行う予定だ。
「本来であれば、禁酒を行わずとも不祥事が起きない方が良い。それでも起きてしまったので、今回はやむを得ず一歩踏み込む対応を取った」と担当者。「局全体として不祥事撲滅に取り組む必要がある。荒療治かもしれないが、全員で意識を高めていきたい」と話す。
果たして2度目の全員禁酒も局が願うような効果が得られるのか、注目される。
※この記事は千葉日報とYahoo!ニュースによる共同連携企画です