東京・神保町で長年ファンに親しまれたロシア料理店「ろしあ亭」が、この地での約30年の歴史に幕を閉じ、市川市に店を移して再出発した。各国の関係者が意見交換も兼ねて食べに来る「知る人ぞ知る店」だったが、ロシアのウクライナ侵攻の影響で嫌がらせを受けたこともあり、移転を決めた。北海道生まれのオーナーは「日本人の口に合う料理ばかり。市川に定着したい」と前向き。戦争の早期終結も願っている。
再出発した「ろしあ亭」は、JR市川駅南口から歩いて5分の「ゆうゆうロード商店街」に11月27日開店。19世紀のサンクトペテルブルクが発祥の人気ロシア料理「白いビーフストロガノフ」や、隣国ジョージア発祥の「熱々のロールキャベツ」の看板が店頭に並ぶ。
「酒好きにはニシンの塩漬けも。以前はロシア料理と総称されたが、種類はさまざま」とオーナーの北市泰生さん(72)。スタッフにはロシア人も日本人もいる。
北市さんは北海道生まれ。都内の大学で学生運動に傾倒し退学。友人の紹介で新宿のロシア料理店に入り、1995年に44歳で独立して開店したのが「ろしあ亭」だった。
ロシア料理好きだけでなく、ロシア政局や中東情勢などを巡って在日大使館や日本外務省、各国の関係者らが情報交換を兼ねて食べに訪れるなど“情報交差点”として知られた店。
新型コロナ禍での苦境に追い打ちをかけたのが、昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻の影響。なじみのウクライナ人客が来なくなった。ロシア人スタッフが後ろから突き飛ばされたり、死亡したロシア兵の写真が店の「X」(旧ツイッター)に送られたりもした。弟子が吉祥寺で開いていたロシア料理店には爆破予告が届いたという。「ロシアにもウクライナにも友人がいる。避難してきたウクライナ人は気の毒というしかない。早く戦争が終わってほしい」と北市さん。
コロナが5類に移行した直後は神保町の店にも活気が戻ったが、厳しい残暑で「寒い国の濃い味」が敬遠されたのか、客足が落ちた。都内の高い賃料も負担で10月に閉店。知人の勧めで市川への移転を決めた。
船橋市に20年以上住んだことがある北市さんは「市川には文化豊かというイメージがある。ロシア文学に登場する料理を紹介したい。もう一度ここから料理を発信してみたい」と意気込んでいる。