江戸川の舟運で江戸時代から栄えた流山市の流山本町地区には当時の蔵や店が残り、今もその栄華をしのばせる。「甲子(きのえね)屋」は明治23(1890)年の創業時は江戸川沿いに立地し、船乗りたちに川魚の料理などを提供した。流山街道沿いの現在地に移転後の1975年、都内で修行した4代目店長の鈴木考治さん(72)が「本物のとんかつを流山で提供したい」との思いから、とんかつ店ののれんを掲げた。
甲子屋の屋号を受け継いだ考治さんは当然のように料理の道を志し、20歳で都内の和食料理店に弟子入り。寮近くのとんかつ屋で偶然食べた味のとりこになり、とんかつに料理人人生を懸けると決め、修業先をその店に変えた。
修行を終え、店を継いでから守り続けているのが、自ら選んだ肉の品質と練り上げた調理法だ。使う肉は、柏市公設市場内の肉卸業者に通い詰めて厳選した旭食肉協同組合(旭市)産の銘柄豚。肉を揚げる油は、こってりした風味を作りだす新鮮なラードのみを使用。高温と中温に分けた銅鍋で交互に揚げることにより、さっくりした薄衣とジューシーで柔らかな肉の食感が生まれる。
変わったこともある。2017年に5代目店長となった禎司さん(43)が、トリュフ塩を調味料として提供することにしたこともその一つ。「香りがとんかつにぴったりだと思った」と禎司さん。さっぱりした風味で、トリュフ塩を購入して帰る客もいるほどの人気となっている。
変わらぬ素材と製法に新機軸の味付けを加えたメニューは、定番の「特選ヒレカツ定食」(税込み1650円)や「特選ロースカツ定食」(同1550円)を初めとして多彩だ。
住宅開発が進み、人口が増えるつくばエクスプレス流山おおたかの森駅周辺からも多くの市民が来店している。「全自動で揚げるとんかつ店もある時代だが、自分はそんなことはできない」。考治さんたちは、きょうも変わらず一枚一枚、肉を揚げ続ける。
◇メモ
◆住所=流山市流山2の298
◆営業時間=午前11時40分~午後2時、午後5時~同8時(月、火曜日定休)
◆問い合わせ=(電話)04(7158)0135